ブレグジットの可否は株式投資に影響あるのか。ブレグジット関連銘柄まとめ。

   

先日、英国とEUはブレグジット(イギリスのEUからの離脱)関して修正案にて合意したと発表されました。
この合意については、最終的に議会の承認を得て批准する事で効力を発揮します。そのため、2019年10月19日に英国議会ではブレグジットの可否をめぐる緊急議会が開かれます
今回はブレグジットをめぐる株式市場の動きを追っていきたいと思います。

ブレグジットとは?イギリスのEU離脱に向けた歴史と問題点とは。

ブレグジットとは、英国のEU(欧州連合)からの離脱の事を指します。

EU(欧州連合)の問題点や不満

欧州各国は共同体としての性格を強め、欧州として統一する事を目指してEUを設立しました。設立の歴史については省きますが、基本的にはEU加盟国間では自由な往来(パスポート不要で国家間を行き来できる)や共通関税(関税同盟とも。加盟国間の関税の撤廃及び加盟国以外への対外的な関税を共通化)、統一通貨(ユーロとも呼ばれる。イギリスだけは特別に自国通貨ポンドを使っている。)、共通法(人権などに関する上位法となる。財政規律に関しても厳しい制限がある。)などが用いられます。

しかしながら、近年EUではアフリカなどからの難民の流入が大きな問題となっています。基本的に欧州は生存権の確立などを人類史上初めて確立してきた国々であり基本的人権を歴史的に大事にする傾向があります。もちろん、それ自体は非常に大事な事なのですが、人権を尊重し難民などを大事にするあまり伝統的にその土地に住む民族、例えばイギリスであればアングロサクソンなどからすると面白くありません。

更に、EUに加盟する国には厳しい財政規律が求められます。一般会計における赤字はGDPの3%以内、赤字国債の発行はGDPの60%以内が基準です。(日本の赤字国債のGDP比率は200%となっています。)この厳しい基準では、景気が低迷した際の刺激策などを自由に行うことができません。つまり、共通通貨のユーロとこの財政規律があるために、EU加盟国は時刻の経済でありながら、自由な経済刺激策を打つことができなくなっているのです。

イギリスがEU離脱に向かうもアイルランド問題で交渉は暗礁に。

これらの不満から2016年にイギリスではEU離脱の是非をめぐる国民投票が行われました。この投票の結果、離脱賛成52%となりイギリスのEU離脱が決定しました。その後は、メイ首相のもとEUから離脱の交渉が行われることになります。。この時の外相が現首相のボリス・ジョンソンです。

しかしながら、この協議な難航します。その背景を説明するには少しイギリスの歴史を遡る必要があります。日本ではイギリスとひとくくりに呼ばれますが、正式名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合共和国」となります。つまりイギリス本島であるブリテン島のイングランド・スコットランド・ウェールズと北アイルランドの連合王国なのです。

このうち、北アイルランドは非常にやっかいな歴史を持っていて、イギリスに帰属する住民とアイルランドへの統一を目指す住民とで長く紛争が続いていました。死者3,000名を超える有名なアイルランド紛争です。この紛争はベルファスト合意により和平が行われました。これによりアイルランドは北アイルランドの領有権主張を放棄、武装組織の解体などが進みます。また北アイルランドとアイルランドの間で明確な国境や関税を決めることは、住民感情を刺激し域内の情勢を不安定化させることから当面は見送られる事となっています。

この時先送りされた北アイルランドの国境・関税問題が今回のイギリスのEU離脱の問題の一つです。先程述べたメイ首相のEU離脱をめぐる交渉が英議会に反対され続け難航したのは、イギリスがEUの関税同盟に残る事が盛り込まれていた事です。

イギリスがEUを離脱する事になると、EU加盟国とイギリスの間で関税が発生する事になります。つまり、北アイルランドとアイルランドの間で国境を設け税関を設置する必要がでてきます。ところが、ベルファスト合意において国境を設けない事が決まっている事から、北アイルランドとアイルランドの間で国境・税関を設けずに関税を徴収する方法がみつかるまではイギリスがEUの関税同盟に残る「安全策」がメイ首相のEU離脱法案に盛り込まれていました。これにはEU離脱派の議員もEUの経済的支配がイギリスに及ぶとして反対した事でメイ首相のEU離脱交渉は暗礁に乗り上げたのです。

英緊急議会でのEU離脱は可決されるのか?

イギリスとEUとの歴史及びその離脱に向けた問題点と歴史をまとめてきました。これらの背景を含めた上で、本日10月19日に行われるイギリス議会のEU離脱をめぐる可否の行方を占います。

ボリス・ジョンソン氏のEUとの修正案合意とは

イギリスはEUの離脱を国民投票にて決定し、その旨をEUに通告。その後、離脱期限の延長などを繰り返しながらも交渉を続けてきました。そして、EUの中でも力を持つフランスがこれ以上の延期はないと強行する期限である10月31日を間近に控えた17日、EUの欧州委員会はイギリスと離脱に向けた修正案で合意したと報道されました。

この修正案では問題となった北アイルランドの関税について修正がなされている。修正は下記の通り。

  • イギリスはEUの関税同盟からも離脱する
  • ただし、北アイルランドに限り関税手続きをEU基準に合わせる事で税関を設置しない。

つまり、物理的な税関・国境はイギリス本島とアイルランド島の間で設置することになり、紛争の再燃を防ぐとともに、イギリスも関税同盟を抜ける事でEUのルールから完全に脱却できるとしている訳です。この場合、北アイルランドは政治的なつながりはともかく、経済的なつながりや体感的な市民生活の感覚はEUに近い行ことなります。

イギリス下院の票読み。否決されると予想。

EU離脱を目指すボリス・ジョンソン氏率いる与党は英下院において過半数まで20議席ほど足りません。加えて、閣外協力してきた北アイルランド地盤のDUP(民主統一党)は党是としてイギリスとの統一を目指す団体である事から、イギリスよりむしろEUとの関係が強く残る今回の修正案には反対を表明しています。DUPの議席数は10議席ほどなので、可決まで30議席が必要となります。

一方で、ジョンソン首相も過去の与党採決に造反し除名された議員などを中心に可決にむけてかけをおこなっており、また反対派である野党労働党への切り崩しも行っています。

ところが、与党保守党でもDUPが反対するのであれば今回の離脱案を支持しないと表明するものがでてきており、やはり株プロとしては今回の修正案は議会にて否決されると考えています。

修正案否決の場合のロードマップ

では今回の修正案が可決・否決された場合はどのような動きとなるのかまとめてみました。

  1. 修正案可決なら期限である10月31日にイギリスはEUから離脱
  2. 修正案否決なら、EUに離脱期限の延期申請

となります。もちろん、可決されれば問題ないのですが、否決された場合はややこしい事になります。

修正案否決なら離脱期限延期申請の可否が焦点

修正案が否決された場合は10月31日の離脱期限の延長申請を行うのかどうか。さらにはその申請がEUに認められるかが問題となります。

離脱強行派のボリス・ジョンソン首相は合意なき離脱も辞さない覚悟のようですが、英議会は19日までに議会が離脱案を可決しない場合には首相にEUへ離脱延期申請を行うよう義務づけている。もちろん、この法律に違反してジョンソン首相が延期申請を行わない可能性もありますが、長期の国会閉会を違法とされるなど法廷闘争では分が悪いためこの可能性は低いとみています。

では、離脱延期を申請した場合です。これまでもイギリスはEUに対して離脱期限の延期申請を繰り返してきました。離脱期限の延長には欧州理事会の全会一致が必要であり、一カ国でも反対すると合意なき離脱となる。この場合にはEUがイギリスを追い出した格好になり、その後の経済的な混乱が起きた場合の責任はEUにあるとされる可能性がある。これを避けるべく、EUは離脱期限の延長を認めてきた訳です。とはいえ、離脱決定から3年となり離脱期限の延長申請が再度認められるかは不透明です。

ここまで辛抱してイギリスのわがままに付き合ってきたのはEUであり、これ以上の忍耐は必要ないとの国際世論が形成されれば今回ばかりは離脱期限延長申請を否決し、合意なき離脱となるかもしれません。

合意なき離脱が最悪のシナリオ

合意なき離脱となることが一番最悪のシナリオです。この場合、まず流通が滞る事になります。拒否された時点で、EUからのイギリスへの商品への関税はどうなるのか?逆もまた然りで、イギリスからEU諸国への関税はどうなるのか?EU圏内にいるイギリス人の保証はどうなるのか?イギリスにいるEU圏内の人の保証はどうなるのか?

経済・人権の保証についても全てが不透明になります。経済的にはサプライチェーンは途切れるでしょうから、広範な企業が影響を受けるでしょう。IMF(国際通貨基金)ではGDPを3.5%ほど押し下げる可能性が指摘される他、英中銀では最大で10%ほど押し下げるという資産もあるほどです。

イギリス経済だけなく、EU経済にも影響を与えます。欧州各国のGDPが押し下げられるような事があれば、米中貿易戦争などの影響で世界経済へ悪影響がでている最中であり、世界的な景気減速のきっかけともなりかねません。

修正案の可否の株式投資への影響は?ブレグジット関連銘柄まとめ

修正案の可否は株式投資へ絶大な影響を与えます。為替への影響も大きい事でしょう。その実例を一つあげます。

合意報道で日経平均先物が200円近く動く

先物チャート画像

これは、「イギリスがEUとEU離脱で合意」との報道がだされた際の先物5分足チャートです。左の矢印の部分では先物が一気に200円近く上昇しました。これは、合意というタイムラインが流れた事で何らかのアルゴが働いた可能性もありますが、この時の欧州各国の市場も軒並み高となりました。

その後は、合意が批准されるのは英議会の承認が必要である事や可決されかが否定的な事が判明すると下落に転じました。

それだけ市場の注目が集まっており、今夜の議会の動き次第では週明け月曜の日本市場は大荒れとなるでしょう。

ブレグジット関連銘柄一覧

株プロサラリーマンとしては、基本的に英議会では合意となる事はないと見ています。そのため、生産体制の見直しや欧州での販売体制などは基本的に不透明感が強まると考えます。結果としては、欧州での売上高比率の高い銘柄が関連銘柄として影響を受ける可能性が高いと考えますので、次の銘柄をお持ちの方は注意が必要でしょう。

 

銘柄コード 銘柄名 欧州売上高比率
7873 アーク 約58.3%
5363 TYK 約42.5%
6586 マキタ 約40.8%
7309 シマノ 約38.1%
5202 板硝子 約36.9%
6985 ユーシン 約36.7%
6789 ローランド 約34.8%
6914 オプテックス 約33.4%
6737 EIZO 約32.8%
6141 DMG森精機 約31.7%
4902 コニカミノルタ 約31.2%
6418 金銭機械 約27.9%
7936 アシックス 約27.0%
7751 キヤノン 約26.9%
7974 任天堂 約26.5%
7593 VTHD 約26.3%
5334 日本特殊陶業 約25.8%
6965 ホトニクス 約25.3%
7839 SHOEI 約24.8%
7999 MUTOH 約24.6%
7732 トプコン 約24.3%
6277 ホソカワミクロン 約24.2%
4028 石原産業 約24.2%
6472 NTN 約24.2%
8586 日立キャピタル 約23.8%
7740 タムロン 約23.7%
4062 イビデン 約23.4%
6444 サンデン 約23.4%
7733 オリンパス 約23.4%
6856 堀場製作所 約22.5%
5201 旭硝子 約22.4%
6758 ソニー 約21.5%
6814 古野電気 約21.5%
6592 マブチモーター 約21.4%
7846 パイロット 約20.8%
9370 郵政ロジスティック 約20.7%
6376 日機装 約20.6%
3405 クラレ 約20.6%

 

ブレグジットまとめ

結局は今日の英議会がどのような対応を取るか確認するしかありません。

修正案可決ならポンドが買われますので為替でもチャンスがあるでしょうし、株式投資としては好材料なのでロングスタンスになります。

一方で否決なら、EUに延期申請をするかが問題になりますので確認まで時間がかかります。無理なブレグジット関連の投資は避けましょう。特に、上記の銘柄をお持ちの方はポートフォリオの組み方を考え直した上で対策をとったほうが良いでしょう。

私としてはサラリーマンという事もありますので、急な動きに対応できない場合もあるので基本は利確優先と考えています。これは皆様の相場を見る環境や立場、資金管理方法にもよるのでどれが正解とは言えません。

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